バトル・オブ・シカゴ 村井さだゆき

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    この画像が何か、お分かりだろうか。

     

    いきなり謎かけみたいに始めてしまったが、これは今年の五月、アニメ業界のフィクサー、M2の丸山正雄さんのお供で訪米したとき、シカゴで思いもかけない出会いに狂喜して撮った一枚だ。

    そもそも今回の旅行の主な目的は、ノースカロライナ州ローリーという町で開催される「Animazement(アニメいずめんと)」というイベントにゲストとして参加するためだ。海外のアニメコンベンションといえば「Anime Expo」が有名だが、規模の大小こそあれ、全米では毎月のようにどこかで似たような大会が開催されているらしい。アニメいずめんとは、その中でもかれこれ二十年近くになるという老舗のひとつだという。この大会に丸山さんは当初から関わってらして、今回はそのゲストトークの話し相手として僕がご一緒することになったのである。
    大会は5/27〜5/29。このために美学校の授業を一日休講にした。代わりという訳ではないが、ここで土産話を披露しておこうと。

     

    アニメいずめんとについてはこちら

     

    で、シカゴだが、こっちはそのついでというか、現在丸山さんと構想中の作品のための取材旅行──いわゆるシナハンだ。内容はまだ詳しく言えないが、アメリカの架空の都市が舞台の作品。架空の都市と言ったって、本当にありそうな現代のリアルな街を描きたいので、そんなの実際に見ないと書けませんよ、と僕が駄々をこねたところ、ローリーに行く前にまるまる二日ほどシカゴ見物の日程を組んでくれたのだ。いやー言って見るもの。

     

    シカゴに決まった経緯は割愛するが、作品ではこれほどの大都会ではなく、もう少し中規模の都市がいいなと思っていた。人口50万くらいの、すべてがコンパクトに収まっていて、一日歩けば街の全体が把握できるような。
    が、行ってみると意外とシカゴは分かりやすい。町は南北に長い長方形の形をしている。1871年の大火で町が焼けた後、街路が碁盤の目のように区画整理され、そこに整然とビルが立ち並ぶ。ループと呼ばれる周回する高架鉄道(山手線みたいなものだがもっとコンパクト)に囲まれた中心街。シカゴ川を挟んでその北にマグニフィセントマイルという綺麗に整備された高級ショッピング街。そこからやや低い建物が続いて、リンカーンパークエリアのように個人住宅や広い公園、墓地がある地域に達する。
    一方南にはイリノイ工科大学やシカゴ大学があって、周囲は学園都市の様相を見せる。町の東岸、ミシガン湖と北ミシガン通りに挟まれたエリアは博物館や美術館などの文化施設と公園。ミシガン湖に突き出た桟橋にネイビー・ピアという遊園地があって、これはニューヨークで言うところのコニーアイランドのような行楽地なのだろう。
    碁盤の目の都市というと京都を思い出すがあれとはまた違う──あれはまた別の魔境だ──ボン、ボン、ボンと大きなゾーンに区分けされた街区が大雑把に置かれたような都市計画。それだけに一点の迷いもない。

     

    摩天楼のある中心街も実際に見ると印象はずいぶん違った。映画などで見るシカゴはもっとゴミゴミした、路地が入り組んだ迷路のような町という印象だったが、実際には上述のように見事に区画整理されているので、斜めに走る脇道や行き止まりというものがない。ビルとビルの狭間の路地がまた幅広くて、真っ平らな土地に障害物もないので何ブロック先まで見通せる。すべてがhuge──これぞアメリカ!
    では、あの映画やドラマに観られるシカゴのカオスな感じはなんなのか。要するに上手く撮っているのだ。改めて映画の力に感心する。

     

    で、冒頭の画像だが、これはミシガン湖添いにある国際外科医学博物館で撮ったもの。ここは観光客が多く行くような場所ではないのだが、事前に調べたときに見つけて、ぜひ行きたいとお願いして連れて行ってもらったところだ。
    古い手術道具や外科技術発展の歴史、華岡青洲の麻酔実験の紹介などもあってとても興味深かったが、その中で見つけた展示物がこれ。正解は「鉄の肺」──つまり人工臓器の肺だ。
    何が思いがけない出会いかというと、TVアニメ版「魍魎の匣」を書いている時に、人工臓器の歴史について調べたことがあったのだが、その折、これと同じものの画像を見ていたのだ。まさかこんなところで本物に出会えるなんて。
    建物の雰囲気もあいまって、思わず「ここは××の○○だというのか! 京極堂」と、関口君よろしく叫びたくなったという(ネタばれのため伏字)。

     

    「魍魎の匣」は原作自体フィクションライン(※)が高い作品だが、京極夏彦さんは膨大な薀蓄によって、あのストーリーに説得力を持たせている。説得力の鍵は、実際にあったこと──つまり事実だ。
    福来博士が透視実験を行ったという事実。
    登戸に軍の研究施設があったという事実。
    そうした現実世界との繋がりによって、我々はあの話が本当に起こったことであっても不思議ではない、という感覚に誘導されていくのだ。僕があの原作をシリーズ構成するにあたって、真っ先に「薀蓄はそのままやる」という方針を示したのはそのためだ。
    この「鉄の肺」もそうした原作の補強材の一つだった。具体例は出していないが、当時そのような研究がおこなわれていたという事実。これが大事だった。

    ※脚本コース第一期昼クラス講師の三宅隆太さんが美学校に持ち込んだ専門用語。

     

    そんな現実から虚構世界に持ち込んだ物証の一つと、思いもかけない場面で出くわすと、とても奇妙な感じがする。突然、虚構の存在がこちらに現れたかのような。ゾッとするような怖い感じ。この感覚は、ちょっとメタな──メタフィクションの面白さに通じるものがある。
    思えば、アニメの聖地巡礼などもそういう楽しさなのかもしれないが、今回のシカゴのように、全く予想外の場で出会うほうが効果は絶大なのだなと感じた次第。

     

    ちなみにこの国際外科博物館の建物、100年近く前に建てられた当初は普通のアパートだったのだが、幽霊が出るという噂のために借り手がなくなり(?)、現在の施設になったのだという。


    About このブログについて 小中千昭

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      「バトル・オブ・円山町」は、映画美学校脚本コース講師が持ち回りでテキストを上げる、非公式なブログ。
      なぜこんなブログを始めるかと言えば、大義としては映画美学校とその脚本コースの認知度を上げる為なのだが、基本的には書きたいものを存分に書く場が欲しかったからだ。
      脚本コースの講師を務める脚本家が、どんな事に関心を持っているか、今語りたい事は何か(映画やドラマに限らない)、好きに書いていく。
      本ブログは映画美学校とは基本的に無関係なので、もし文の中に問題がある場合はその筆者が責を担う。
      映画美学校、その脚本コースについて知りたい方は公式サイトを御覧戴きたい。


      さてここからは私個人の話を記す。
      映画美学校の講師をする様になって5年目となった。
      まだこの学校の認知度はあまり高くない様だ。設立者の方の理念はちゃんと聞いた事がないのだが、「映画美学校」という名称を改めて見るとちょっともの凄い。直訳すればCinema Aesthetics Schoolである。「エステティクス」というと、一般の人は美容の「エステ」を思うだろうが、本来は哲学の一ジャンルである「美学」(芸術論)の事であり、私が学生時代に専攻した科目である。

      実際の映画美学校は、ほぼ「美学」とは関係無い。フィクション・コースでは、インディペンデント映画を作れる人材を育成し、脚本コースではプロの脚本家となりたい人を導き、アクターズ・コースでは言わずもがな。他にも様々な科目があって、いずれも直裁に実践的なものであって、頭でっかちな理念ばかりを押しつけるものではない。
      だが、一部には映画美学校が「シネフィルが集まるところ」的なイメエジが持たれている。
      シネフィルというのは、マニアックな映画愛好家をスノッブさのニュアンスを込めた呼称だ。車で言えばエンスー(ジアスト)である。
      これはしかし勿論誤解なのであって、実際中に入ってみれば判る事だが、シネフィルとは掛け離れた雰囲気で、受講生の年代も多彩なのだ。
      ほぼ「無関係」とは書いたが、脚本コースは2年課程であり、常に「初等科」と「高等科」が開講されている。昼と夜の部があって、それぞれ担任講師が異なっており、一応の共通カリキュラムはあっても、教えている内容、何よりその考え方は講師それぞれに異なる。そこには当然に「理念」がある。フィクションもアクターズでも同様であり、その意味に於いてまさに美学が伝えられているとは言えよう。
      ちなみに映画美学校の講師は皆プロの監督や脚本家なのだが、生徒に講師を「××先生」とは呼ばせないカルチャーがある。

      円山町というのは、渋谷の道玄坂を登ったところから宇田川町側に下る坂一帯の地域で、今はライヴハウスやクラブも多いのだが、何よりラブホテルが密集しているエリアだ。映画美学校はそのど真ん中にある(以前は京橋に在ったのだが)。
      通い慣れると何という事もないのだけれど、通い始めた生徒が、道行く人の視線を気にしたり、動揺する事があったりするものか、訊いてみようと思った事もあるのだが、その質問自体がセクハラに当たるのかもしれないとも思い、未だに尋ねた事はない。
      まあそんな場所だけれど、別に普通です。問題ありません。
      一つ困る事があるとすれば、円山町に限らないのだが、日本には無かった筈の風習であるハロウィンの時期になると、もの凄い格好をした若い男女が道に溢れてまともに歩けなくなる事くらいである。


      ところで、リンクは貼らないが私はとあるグループについてのファン・ブログを1年半程書き続けている(故あってここ暫く更新していないが)。
      そこでも当初は、主題と関係無い映画や音楽の事を好き勝手に書いていたのだが、徐々に読者が増えて、主題以外のエントリは書き難い雰囲気となってしまった。
      美学校脚本コース講師陣のブログをノープランで始めよう、と思いついた背景には、実はそうした個人的動機があった。
      ここでは存分に、その時書きたい気分のものを書いていく。

       


      画像は、離婚した妻が置いていった頭の弱いネコ。もう老齢である。


      あ、忘れるところであったが、これは書いておかねば。
      脚本コース初等科6期後期、高橋泉(日曜昼)クラス、小中千昭(木曜夜)クラスの受講者の募集開始が近々あります。詳しくは公式にて。

       

       



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