珈琲閑話 田中幸子

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    珈琲が好き。いや、すこぶる、好きである。

    毎朝、珈琲の香りと味がないと一日が始まらないし、脳が働かない。

    朝二杯。

    仕事中、だらだらと二、三杯。

    夕食後、一杯。 明らかに飲み過ぎである。

    しかも、かなり大きめのカップを愛用しているので、一杯が通常のカップの二杯分かもしれない。

    とにかく、私にとってPCと猫に並び、珈琲は仕事をする時の必需品なのである。

    (写真は最近飲んだカフェマキャート。ウサギの前脚も描かれていて、かわいいのです)

     

    そもそもいつ頃から珈琲に目覚めたのだろう。

    最初はインスタントコーヒーから始まった気がする。 豆から挽いて飲む珈琲を知ってから、今は全く飲まなくなったけれど。

    そうだ、インスタントだった。一緒に暮らした祖父母が、三時のおやつ時になると必ず飲んでいたっけ。

    小学校に入学したばかりの私は、グラインダーとかドリップとか、そんなこと知らなかったから、

    インスタントコーヒーを本物の珈琲だと思っていた。

    大きくUCCとロゴの入ったガラス瓶の中から、祖父がスプーンでジャリジャリとした固形物をカップに入れる。

    ガラス瓶の蓋は金色がかった黄土色で、ただのプラスティック素材だろうけれど、

    子供心に、なんだか贅沢なもの、と信じていたような気がする。 もちろん、

    子供の私は飲ませてもらえなかった。だから、それは大人だけが楽しめる禁断の飲み物。

    祖父母のカップから漂う苦い香りを感じつつ、コタツの隅にちょこんと座って自分のおやつを食べている私に、

    祖母は「特別ね」と言って、クリープのあまーい白い粉を食べさせてくれた。

    ひと匙だけの、至福の味だった。 クリープは食べようとするとすぐに溶けて固くなって、スプーンにへばりついてしまう。

    食いしん坊の私は必死に舌で舐めとった。だから、幼いころの珈琲の思い出は、鼻孔に漂う苦い香りと、このクリープの舌触り。

    いつの頃からか、祖父母と珈琲を飲むようになっていたが、そこではインスタントが本物の珈琲だった。

    それでじゅうぶんおいしかった。

     

    さて?

    ここまで書いてみたが、 「珈琲はやっぱり挽きたてが最高!」と、考え出したのはいつからだろう。

    多分、アメリカの田舎町に暮らしていた時だと思う。

    まぁ、アメリカでは、比較的安価な店の珈琲は薄いけれど、町のダウンタウンにあったベーグル屋さんの珈琲は違った。

    当時の田舎には珍しいベーグル専門店で、ベーグルの生地が豊富だった。

    プレーンからイチゴやブルーベリーを練りこんだもの、ほうれん草などの野菜バージョンもあった気がする。

    生地に挟むものも豊富。ローストサーモン、チキンやビーフ系もあった。私のお気に入りはクリームチーズ系。

    「ブルーベリーベーグルに、ラズベリークリームチーズを挟んで。珈琲も」 というのが、お気に入りのメニューだった。

    クリームチーズの量がすごくて、2センチくらいの幅(!)になるくらい塗りたくってくれる。

    ひんやりしたクリームチーズと、少し焼いてもらった固めのベーグル生地。そこへ濃いめの珈琲の苦味。

    今でも思い出すと唾液の分泌が増す。朝の定番だった。

    珈琲の種類も今日のスペシャル、モカ、フレンチ、ブラジル等々豊富にあった。

    「今挽きたてがでるから、ちょっと待って」

    と、店員のお姉さんに言われて素直に待っていると、すこぶる深い珈琲が出てきてうれしかった。

    店の外でしんしんと雪が降っている朝は、格別にうれしい。

    珈琲はその頃から、一人暮らしのアパートでも珈琲メーカーを買い込んで、日常的に飲むようになった。

     

    それから数十年。

    ブレンド、カフェオレ、カフェマッキャート、カプチーノ、エスプレッソ……。

    デカフェ、無脂肪乳、豆乳……。

    子供の頃に比べれば、種類は豊富だし、自分が今何を飲みたいかもだいたいわかる。

    近所には何軒かのお気に入り珈琲スポットがあるし、家庭での珈琲の消費量は尋常でない。

    いつか、サイフォン式珈琲メーカーがほしいけれど、理科や化学の実験が苦手だった私には、あのシステムは恐ろしい。

    沸点に達した瞬間を想像しただけで不安になって、手が出ない。

    こんな感じで、日々マイペースに珈琲を楽しんでいる。

     

    珈琲体験を積み重ねてきて、正直、インスタントコーヒーは飲みたいとは思わない。

    けれど、クリープの甘い粉をぱくりと食べながら楽しんだあの香りは、特別に好ましい香りだったと、今でも思っている。

    この経験がなければ、珈琲好きにはなれなかったかもしれない。

     

    そうそう、珈琲といえば、映画『ニキータ』のワンシーン。

    高級カフェで主人公が久しぶりに上司に会う時、何を注文するのかと思えば、 不愛想に、

    「ショコラ、ガトー」(字幕では「ココアとケーキ」)と言う。

    えっ甘いものに甘いもの?!

    そこはブラック珈琲じゃないの?! と、驚いた。

    でも、主人公の人物造形の一端と考えると、その意外性ゆえに妙に納得してしまう。

    セリフのリズムもいいし。

    なるほど、このシーンで上司に腹を立てている殺し屋の主人公には似合っているのだ。

    (あ、それともフランスのココアは苦いのか?)

    些細なことだけれど、こういう部分も大切だと思えるシーンです。

    (むすっとした表情と帽子のポップなデザイン、この落差がこれまた楽しい。)

    (幸)

     


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